潮騒が撃つ
Rin.


身体の中で潮騒を飼っている
辞書はそれを焦燥や憂鬱や歓喜などというが
潮騒はそんなにもシュハリ、と
姿を変えるものだろうか。

生まれて初めての始発に乗った。
どうしてだろうかとは考えようとしない。
吊り広告の文字が
曖昧に耐えられない朝の視界に否応なしに入ってくる。
乗客はふたりだった。もちろん
私は彼を知らない。
ゆうべの夢を思い出した。始発は
夏を目指していた。
潮騒が、また――ああ、肋骨の中がこそばい
ここは空洞ではなかっただろうか。
空洞ではなかっただろうか。
車両に抜け殻の、笑い声が充満する。
私は海に行きたかった。

身体の中で潮騒を飼っている
潮騒は息をする
シュハリ シュハリ
勝手にしてくれればいいが
肋骨の中は空洞なのでなんとなくもどかしい

始発は夏に向かっている。
乗客は足し算と引き算を繰り返していたが
それにももう飽きたようで、またふたりに戻った。
彼はありふれた朝に戸惑うこの存在を知らない。
潮騒が、また―――ああ、肋骨の中に
あふれた海が満ちる気がした。
私はここに、また生まれるのだろうか。



自由詩 潮騒が撃つ Copyright Rin. 2008-07-03 00:16:06縦
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