風がつよい日
石畑由紀子
風がとてもつよいので
窓をしめて
新聞紙のうえで爪を切る
あれから、
手のひらを丸めるくせがついて
そのくせ伸びるのは
はやくて
パチン、パチンパチ、ン、
的をはずれ
飛び散る
爪
ふふ、なんべんやっても
上手くいかないの
ね
私が
私のまま在ることに
うなずいてくれる場所は
あるだろうか
突然のノックの音に
ためらいながらドアを開けると
あたためすぎていた部屋に、まだ
すこしつめたい四月が
にぎやかに吹き込んできて
よびごえ、わらいごえ、
部屋いっぱいにひろがって
いつかの体育館のエコーみたい、ゆれる、満水の
人のなか
ちいさく
私の形ができあがる
真んなかを
守るために
指先はみんなつめたい
まるくなった爪を
まるくかくしながら
やわらかくわらってドアを
閉めて
(バイバイ、
散らかった爪
掻いてしまった、あのひとの
皮膚
どうして
ひとりなんだろう
風がとてもつよい日に