だから渇いた時は水ばかり飲んでいる
エスカルラータ
『メキシカン・ソレイユ』
テキーラにライム搾ってソーダで割るだけ。
俺のオリジナル。
ポイントはライムを切ったナイフで、そのままステアする―それが美味さの秘訣ってもんだ。
バタンガと違って飾り気はないが―どうだい、いい味だろう?
俺はこの酒は太陽の味がすると思うのさ。さえぎるもののない、あの乾いた土地の、太陽の味が。
*
この世で一番うまい飲み物を知っているか?
それは水さ。
よく冷えた水は、まよいのない輝きの味がする。
そいつは舌を研ぎ澄ます。
イタリアンの席じゃ、たまに気取ってサンペルグリノを頼んだりもするが―やっぱ一番は水だな。
だから渇いた時、俺はきまって水ばかり飲んでいる。
*
スノーボードのワンメイクみたいな愛の装いが跋扈する季節
情報誌に踊らされた若い連中が、さしたる気取りもなく肌の温度を計りたがる。
唇の℃を確かめたその後、そのままS字を描くみたいにすべり落ちた手が、肌の弾力について語り合う。
夏とはそんな季節。俺の履歴も例外じゃない。踊っていたよ。同じように。ただ、いつからか踊らなくなっていた。何故かなあ――
縛るのは、忘れちまった約束みたいなもんだ。太陽の中に黒点がある様に、出会いの陰に
俺たちは別れの約束とも指切りしてるんだ、って事。
手放したものたちの
手放した時に発光するレクイエムが
大理石に反射したステンドグラスの光みたいに、美しいものばっかりじゃない―それが、いつからか俺を臆病にさせちまった。
外見の美しさを見るたびに、それがいかにおのれの人生と関係のないものであるか値踏みして、値踏みしちまうんだよ。
「寄り添える言葉はあるかい?」「それはどんな響きを聴かせてくれるのかい?」…なんて勝手に手放さなくて済みそうなものの数を、お相手とおのれ自身に問うてしまうのさ。勝手に、勝手に。
なあ、いつから夏ってのは、こんなに――
気圧されたまぶしさの針が光る
そんな容赦ない季節になっちまったんだろうな?