だから渇いた時は水ばかり飲んでいる
エスカルラータ




『メキシカン・ソレイユ』


テキーラにライム搾ってソーダで割るだけ。

俺のオリジナル。
ポイントはライムを切ったナイフで、そのままステアする―それが美味さの秘訣ってもんだ。


バタンガと違って飾り気はないが―どうだい、いい味だろう?


俺はこの酒は太陽の味がすると思うのさ。さえぎるもののない、あの乾いた土地の、太陽の味が。





この世で一番うまい飲み物を知っているか?


それは水さ。


よく冷えた水は、まよいのない輝きの味がする。

そいつは舌を研ぎ澄ます。

イタリアンの席じゃ、たまに気取ってサンペルグリノを頼んだりもするが―やっぱ一番は水だな。


だから渇いた時、俺はきまって水ばかり飲んでいる。





スノーボードのワンメイクみたいな愛の装いが跋扈する季節


情報誌に踊らされた若い連中が、さしたる気取りもなく肌の温度を計りたがる。

唇の℃を確かめたその後、そのままS字を描くみたいにすべり落ちた手が、肌の弾力について語り合う。


夏とはそんな季節。俺の履歴も例外じゃない。踊っていたよ。同じように。ただ、いつからか踊らなくなっていた。何故かなあ――




縛るのは、忘れちまった約束みたいなもんだ。太陽の中に黒点がある様に、出会いの陰に
俺たちは別れの約束とも指切りしてるんだ、って事。

手放したものたちの
手放した時に発光するレクイエムが
大理石に反射したステンドグラスの光みたいに、美しいものばっかりじゃない―それが、いつからか俺を臆病にさせちまった。

外見の美しさを見るたびに、それがいかにおのれの人生と関係のないものであるか値踏みして、値踏みしちまうんだよ。

「寄り添える言葉はあるかい?」「それはどんな響きを聴かせてくれるのかい?」…なんて勝手に手放さなくて済みそうなものの数を、お相手とおのれ自身に問うてしまうのさ。勝手に、勝手に。




なあ、いつから夏ってのは、こんなに――










気圧されたまぶしさの針が光る
そんな容赦ない季節になっちまったんだろうな?






散文(批評随筆小説等) だから渇いた時は水ばかり飲んでいる Copyright エスカルラータ 2008-06-29 18:32:20
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