雨の日の庭、傘から聞く風景
木屋 亞万
雨樋の裂け目から
私だけに降る雨がある
長方形の庭の隅
縁側から三歩進むと
雫の群れとの遊び場
傘に隠れてよく泣いた
いつも悲しいときは雨で
そのおかげで気が晴れた
傘を回して雫を飛ばす
じいちゃんは私の回る傘
微かに揺れる背中を
本を片手にずっと見ていた
スカイブルーの傘に
ばらばら雨が漏れてくる
そんじょそこらの道では
聞くことのない雨の滝
庭にはいくつも花が咲き
私はピラカンサを愛した
白い花が咲き赤く実るは
女の子の人生そのもの
雨はいつだって冷たく
空気より透明で優しい
涙の熱をそっと冷まして
赤くなった目の回り
鼻の頭に湿潤な風がひやり
庭の先にはコンクリート
ブロック塀が続いていて
私の傘の中、心の中から
覗くと想像の森に変わる
私を見守る目が閉じられた日
本が机と同化し始めても
雨の降る気配はない
傘を持って縁側で待つも
雨の降る気配はない
いつかの雨の日に戻りたくて
小さな赤い実を引きちぎり
空へ放り投げて傘を開いた
ピラカンサがバラバラと降るも
雨の降る気配はない
刺に傷ついた手が痛む
ようやく雨が来る
濡れたアスファルトの
熱気が香ってきて
私は私の場所へと帰って
傘を広げた
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象徴は雨