麦藁帽子のある白と黒のオマージュ
りゅうのあくび

定刻どおり
バスがまだ来ていないので
画用紙のうえには
バス停にいる人々の
シルエットが
壊れかけた
目覚まし時計の
秒針のように
記されていて

バス停で
麦藁帽子を
深くかぶり
白いフリルに
飾られた
ワンピースの
バスを待つ恋する人へと
向かって
デッサンは走る
鉛筆の先が
黒い弧をえがきながら

額縁のなかで
とても微かな重力が
はたらいて
白と黒の色は
ちりばめられながら
バスを待ち続ける人々の
オマージュは
くっきりとした
記憶のなかにあって
恋が生まれる
世界を
見るための窓として

綺麗なカジュアルをした
恋する人は
誰も知らない場所へと
旅立ってゆく前に
静かに佇んでいる

デッサンをする
画家の前で
描かれる季節に
雨が降ったばかりで
水たまりやら
差し込むひかりやらが
鉛筆のなかで動いていて
陽射しは
小さなフルーツの
缶詰を開けたときに
甘く香るような果汁が
とてもみずみずしく

絵の中で
恋人がかぶる
麦藁帽子の色に
陽射しが
まぶしくあたり
ちょうど
その影には
地上から見上げる
鉛色の積乱雲が
濃い鉛筆で
色を付けられていて
夏に降る
雨の匂いが
そっとしてくる


自由詩 麦藁帽子のある白と黒のオマージュ Copyright りゅうのあくび 2008-06-28 20:44:29
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