赤紙破れ

今日も今日とて後指
布越え皮膚越え突き刺さる
それでもおとんに比べたら
こんなの痛くも痒くもねぇ

隣のばばぁは喧し屋
ぴいひょろぴいひょろ鳴き渡る
お前は何も知らんだろ
少しは嘴閉じておれ

隈飼う目玉は漫ろ色
昔ばかりを映し出す
割れた唇半開き
ひゅうと一声風が鳴く
解れた着物は唐風通し
下げた両腕空を切る

びっこはおとんの裾を引き
草鞋がおかしな絵を描く
よたりよたりと歩く様
胸が痛うて見ちゃおれぬ

おとんがびっこを引いて行く
背中を丸めて何所目指す
早く帰れと飛ばした声は
背中で跳ねて転がった
悔し紛れに蹴飛ばせば
白けた土に溶け消える
嗚ぁ呼おとんは何所行った

夜には足を揉んでやろ
まんまんしゃんにもお願いしちゃろ
おとんよ早う帰りなし

投げる声も煩いも
布越え皮膚越え地べたに刺さる
悔し紛れに蹴飛ばせば
割れた破片が塵光る
べかこう垂れてみたけれど
隠せぬ泪が一滴
助けておくれよまんまんしゃん








自由詩 赤紙破れ Copyright  2008-06-27 02:12:08
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