おとうさんレプリカ
佐野権太

濃いほうのお父さんの
ガハハな笑顔もいいけど
やっぱり私は
うすいほうのおとうさんの
静かなほほ笑みが好き

声に出して呼ぶと
両方振り向いて
うすいおとうさんが
所在なさそうに下を向くから
胸のうちにおく
おとう、さん
ふうわり頭を撫でてくれる

ひみつを打ち明けると
びっくりして、こまった顔
だいじょうぶだよって
教えてくれた
はるかな息つぎのやり方
つないだ指と指のあいだの
かすかな熱の記憶に
もたれて
ゆらぐ
おとうさんと話していると
安らかな泪があふれます


おとうさん
おとうさん
いちにちの終わりが
桃紫に打ち寄せて
遠い空のふちを彩ります

まだ不確かな私は
大切なものたちを
あんなにもうつくしく
あつめることはできないけれど
いっぽずつ生まれ変わる朝に
いつか
よく似た人とすれ違えたら

緑のつゆに傾くような
正しい愛情で







自由詩 おとうさんレプリカ Copyright 佐野権太 2008-06-24 09:57:14
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