すべての男は天使である
れつら



カタヤマくんはジャングルジムのてっぺんが好き
ここのジャングルジムは幼稚園のくせして子どもたちが登るにはちょっと高すぎるので
てっぺんまで登れるのはカタヤマくんくらい
カタヤマくんはてっぺんまで登ってから
飛び降りてライダーキックの練習をしている
毎日ライダーキックの練習をしている
先生があぶないからやめなさいと言っても
いつもいつもライダーキックの練習をしている

あんまりにもライダーキックするので
カタヤマくんは仮面ライダーになりたいの?と聞くと
カタヤマくんは詩人になりたい、と言う
どうして詩人になりたいの?と聞くと
詩人になったら詩をみんなの前で読むでしょう、
そしたらみんなが拍手してくれるから
だから詩人になるんだよ、と言った
そこで俺は一応人生の先輩として、
詩人は食えないからやめとけ
せめてラッパーにしとけ
と、アドバイスしたら
あとで先生にこっぴどく叱られた
なんでやねん
先生、いらんことすんなや


ある日、俺の優秀な参報であるニシワキくん(4歳)が
ハルカちゃん(3歳)が泣いている、というので
俺の心のアイドルであるハルカちゃんを泣かすとは何事ぞと思い
おゆうぎじょうに行ってみると、
カタヤマくんがふくれっつらで座っている
俺(24歳)はハルカちゃん(3歳)を泣かせた
カタヤマくん(5歳)に軽い憤りを覚えた

そこは大人の対応として
ぐっとこらえて
どうしたのか、とカタヤマくんに問うた
するとカタヤマくんは
ハルカちゃんにほんとのことを教えてあげただけだもん、と言う
ハルカちゃんはハルカちゃんでわんわん泣いていて、
正直かわいかった
と同時にカタヤマくんに殺意を覚えた
が、外野連中がカタヤマくんが悪いだのハルカちゃんかわいそうだの五月蝿いので
とりあえずレイザーラモンHGのモノマネをしてその場を収めたら
今度は園児どもがみんなしてフォーフォー言い出して、
俺は先生にこっぴどく叱られた
なんでやねん


あとになってニシワキくんが教えてくれたのだが、
そのときみんなで将来の夢の話をしていて、
ハルカちゃんは天使になりたい、と言ったんだそうだ
ハルカちゃんは24歳の俺がちょっと油断すると
萌えーとか言ってしまいそうなくらいかわいいので
園児共はみんな同意して、なれるよーなどと言っていたら、

カタヤマくんが、
天使になんかなれないよ
と、
ブルーハーツのようなことを言った
僕たちは羽根がはえてないから
天使にはなれないよ、って
そう言ったんだそうだ

そしたら、ハルカちゃんが泣いてしまって、
あとはご存知のとおり、というわけだ


俺は、4歳のくせに「ご存知の通り」とかぬかすニシワキくんに
軽い憤りを覚えた が、
ここで教育的制裁を加えると
あとで先生に叱られそうなのでやめておいた

俺は、確実に成長している。


中庭に出ると、
もう日が暮れそうで、
さよならのおうたを歌う時間が近づいていた


カタヤマくんは、ジャングルジムのてっぺんでじっと座り込んでいた


カタヤマくんよ、
君が大きくなるなかで、大切なのはかならずしも事実じゃない、ってことに
君は気付くだろう
そしてそのとき、君はひどくがっかりするんだろう
俺たち大人と、じきに大人になってしまう自分に

けれども、
それでも詩人になろうとするなら、
すぐに気付くことができるだろう
時には、詩人になるより
天使になるほうが簡単だってことに
かわいい女の子の前じゃなおさらだ
たとえ、羽根がなくっても

などということを詩人の先輩らしく考えていたら、
先生がやってきて、
カタヤマくーん、さよならのおうたの時間ですよー
などと言おうとするのでとりあえず俺は先生をボコにしてだまらせた
詩人には黙って夕日を眺める時間が必要やねん
いらんことすんな



カタヤマくんは、じっと座って夕日を見ていた
飛び降りたりはしなかった
俺は、次にカタヤマくんが飛ぶときのことを考えていた


何気なく振り返ると、
園長先生が俺のことをなにか言いたげな微笑みで見つめていた
俺はその瞬間、すべてを悟った
カタヤマくんが次に飛ぶときは、天使になるときだってこと
俺は、君を天使にするためにここにきたってこと

それから、どうやら俺はクビらしい、ってこと


カタヤマくん、
詩人になれよ
詩人と保育所の先生は両立できんみたいやけど
詩人になれよ
できるだけカッコよく
だれかを天使にするような詩をよめよ
ただし、一応、もう一度だけ忠告しておくが
ラッパーのほうがモテるぞ





自由詩 すべての男は天使である Copyright れつら 2008-06-22 02:06:15
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