氷喰症
藤原有絵

うだるような夏休みの夜
水を求めるように
冷凍庫から氷をとり
口に入れる

がりがり
噛み砕いたり

飴玉のように
ゆっくり溶かしたり

氷は40度に満たない
僕の身体にすぐ溶け消えた

何気なくもう一つ

暗い台所で
冷凍庫のひっそりした光や
足下を滑って逃げる冷気が

気持ちがよくて

何気なくもう一つ


ある日母が氷を食べる僕に
「あなた、氷喰症なんじゃないの?」
と 眉をひそめた


大丈夫なの?


意味が分からなかった

登校日に先生に聞いたら
「心の癖の一つ」
と 教えてくれた


児童公園の前で
水飴を売る屋台の男から
杏を巻いた水飴の棒を買う

透明なのに
氷より溶けるのが遅いんだよ
早く杏に届きたくて
でも長く水飴を口の中に入れていたくて

母がネバネバしたものを
服につけて帰ると
すごく怒るので

慎重に口を動かす


タネを水飴で巻いた棒を
たくさん並べられた
大きく暑い氷の板を見て
それを食べたいとは思わないから

僕は
氷喰症ではないと思った

うすく杏の味を感じる頃
もう口の中が甘ったるい

でも
味がある方が好きだから

僕は
やっぱり違うなと思った







自由詩 氷喰症 Copyright 藤原有絵 2008-06-22 00:56:46
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