たもつ



耳の奥にある大西洋のような広い海から波音が響く 
波は切り立った崖にぶつかり白く砕け きみは毎日の新陳代謝
そしてささやかな発熱を繰り返している
切り立った崖の上にある一軒のブック・ストア
きみは思い出せない鳥を図鑑で調べる
二階からは次男が広い海へと出勤
青い空の下 今朝もしめやかに溺死する
レジに座る長女の吐く、吐く、吐く、息
そのすべてが鱗の形をしていて
さて何の魚でしょうか
クイズが発せられた瞬間
世界中の眼鏡という眼鏡が一ミリずり落ちる
瞬間 眼鏡をかけてないきみは
そのことに気づかない
という瞬間
にも
新陳代謝
そして発熱
捲られたページからは次々と鳥が飛び立つので
きみは思い出せない鳥をまだ思い出せない
扉を開ける母親 その背中にも翼
けれど扉の外は空っぽに似ているから
母親は羽ばたきを聞くばかりだ
鳥たちは波となり切り立った崖を侵食し
ブック・ストアから崩落していく言葉たち
そのいくつかが唇に漂着して
またきみの熱となる
レジの奥
卓袱台の前では このまま朝であり続けるかのように
父親がまだ生まれてないきみの名前を考えている






自由詩Copyright たもつ 2004-07-15 07:28:21
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