桜桃
小川 葉

僕はものごころついたときから
自分によく似た大人を見てきました
それはずっと
父親だと思ってましたが
本当は自分の息子かもしれないと
最近では思うようになっているのでした

息子はまだ三歳で
一緒に暮らしてますが
ときどき間違えて
父さん
そう呼びそうになるたびに
言葉を飲みます

子供より親が大事と思いたい
と思いたい
僕は三十九歳になりました

人のようにツルに生え
人のように繋がりあい
はち切れそうに
切なく染まった桜桃を
食べては種をはき
食べては種をはき
そうして虚勢のように呟く言葉を
飲みこんで今日も生きてます


自由詩 桜桃 Copyright 小川 葉 2008-06-19 23:37:38
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