巻頭 一月
縞田みやぎ

 


1/4

あしのした と うなじ と あばら に
くものすがはっているので うごけません
女の子だから くものすを
やぶるようなおいたは いかんのです



1/5

尾っぽのさきが揺れて
眼鏡をかけた人々が 路地を覗いています
デジタル
砂の味でも 食べられるものです



1/6

朝起きて 猫が逃げて行くのを見ました
抱くとそれなりに甘えるのですが
目が合うとそそくさと逃げて行くので
蝶をおう季節がこないものかなと思いました



1/7
スパークル パークル パークル
三回繰り返したら 意味のない
ぽつぽつとした皮膚の人ばかりいる
穴に落ちていけるか が



1/8
木の絵をかいたよって 言いたくて
木の絵を ぼくはかいたよって言いたくて
言いたくて
おとうとがしんだときにも 似て
ぼくはあの子の顔を えんぴつで かいた
そう
そう かいたよって 言いたくて



1/9
親しい人と、お葬式の話をしました。この世界に歌があって、言葉があって、私の体があって手足があって相手の体があって手足があって抱きしめることができて、「だいすき」という言葉があって、言う口があって声があって、歌があって、言う場所があって言うことができて、ああなんてしあわせなんだろうと思いました。かなしくてくるしくてやりきれないけれど、しあわせだって思いました。しずかに。



1/9
いぬやねことおなじになったら
きっとあしのうらがちべたい ちべたいってなくんだ
わたしがあるいてもつめがちゃりちゃりいわない いわない て
なくんだ



1/10
汁物にはゴボウを入れたらよかった
私は 食べ物の話をしたら
女の子の詩人だと暴かれてしまいました
注意深く ふくしゅーの時を待って



1/11
まるく、まるく。
まるくしんでいくために詩を書こう
ぼんやりと滅んでいくための骨のかたち
ぼんやりと滅んでいくための肉のかたち



1/12
ヘドフォンしてると耳があったかい
そう言った妹を ひどく責めたことがあります
視線の合わない横顔を
わたし今 あったかいから
ヘドフォンしてるの



1/13
ピーナッツクリームが ていねいです
リプトンの紅茶も ひどくていねいです
ていねいな仕事と ていねいなあきらめのうえに
私の今日がゆるされています



1/14
テス テス 青い線の
私の名前が探されている 岸に
手のひらに乗らない大きさのものを
ぜんぶ悼まなくても 怒ったりしないよ



1/15
おてんとうさんが 凪を吐き出して
海辺のまちは雪が降っています
しおのにおいはしません
うみくさい うみくさい けつまずく



1/16
くににかえる話をしていて
くに て言葉は素敵だって思った

わたしのくに
わたしのしゃかい
わたしのことば



1/18

壁紙に鳩をとめておくピンを
買ってきてください
角の むらさきの看板の店です
七百円です



1/19

腹痛の隙間に 畑仕事があり
安全な 排せつがあります
常用の漢字が本棚に並べられ
私はじいさまの背中に 負け続ける



 


自由詩 巻頭 一月 Copyright 縞田みやぎ 2008-06-19 23:36:02
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