雨に塗れる
松本 卓也

狂えてしまえれば
逃れられるだろうに

面影の無い残骸は
夢の端々に散らばり
短く浅い夢の中でさえ
仕事をしている姿がある

何度問い続けただろう
幾年振り返り続けたろう
半年後に迎える三十路を前に
何一つ備える事が出来なかった
人生を呪うしか術も無い

臆病と惰性と憤怒とを
飯の種に等価交換するため
噛み砕き咀嚼して吐き出し
飲み込んでは排泄を繰り返す

やがて街路樹の果実が朽ちて
銀杏独特の異臭を放つが如く
無価値なまま積み上げては崩れる

誰かの心に引っかかりたいと願いながら
どうせ、を言い訳に心を閉じる作業
慣れつくしてしまった表情には
卑しい笑顔しか張り付いていない

意識の虚無だけが恐怖の根源だから
明日の飯と温かい布団の補償を求め
クレームとメンテと繕い笑いを処理しつつ
現実から離れられない弱さこそを呪う

梅雨空が零す涙を無造作に浴びようか
毛穴と言う毛穴から溢れる汗を誤魔化すには
これくらいの天気が丁度良いのだから


自由詩 雨に塗れる Copyright 松本 卓也 2008-06-19 22:22:32
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