砂丘の花
服部 剛
私がこの世に産声をあげたのは、一体何故
であろうか?・・・十代の頃からその問は、
胸中に芽生えた。あの頃、私の心の土壌に顔
を出した芽は、現在三十歳を過ぎた私の心の
土壌深くに根を伸ばし、背丈を伸ばした茎の
上には、一輪の花の蕾がある。
世には無数の花々があるが「私という花」
はこの世にたった一輪である。「今」という
瞬間が二度と無い永遠の数珠の連なりである
ように、この世という土壌に於いて、すべて
の人はそれぞれに、唯一無二の花である。
もし、今この手紙を読んでいるあなたが、
無人の砂丘を歩む旅人であり、目の前には、
果て無い砂丘と空が広がり、時折吹き荒れる
風に砂塵の舞うなかを歩いているなら、あな
たは砂塵の渦巻く向こう側に、一論の花の幻
を探し求めるだろう。
その花に宿る精霊の姿を視る時、そこには
あなたが最も愛した人の顔が現れるだろう。
そして、花の精となったその人は、あなたに
たった一言、音の無い声で語るだろう。
( あなたの花を、咲かせてください )
次の砂嵐が巻き起こり、舞い上がった砂塵
のすべてが地に落ちた時にはもう、花の幻は
姿を消しているだろう。目の前には只、果て
無い砂丘と空が、広がっている。