小川 葉

真夜中
港まで自転車で走る
橙のあかりが点々と
その下に一人
また一人と
釣り人が並んでる

釣れますか
聞いても誰もこたえない
みな透明だから
二人乗りしてきた友人も
いつのまにかいない

ひとり
学生寮に帰って眠る
布団に潜れば
暴走族の遠鳴りが聞こえてくる

隣の部屋で眠る
他郷の若者は湿った咳をしてる
反対隣の部屋からは
ついさっきまで家族の匂いがしたのに
今はテレビの音しか聞こえない

人に出会う前の
静けさが何とも言えず
これからはじまることは
これから終わり続けることなのだと
眠りの世界が語りはじめる

乗り捨てた自転車の
車輪が回り続けるように
過去の港で僕は
透明な釣り人になっていた

日の出とともに
ぼんやりと透けていく魂は
点々と人のかたちをえがきながら
今朝も港に朝をもたらす


自由詩Copyright 小川 葉 2008-06-18 23:18:24
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