【うめぼし】
檻野楴人






それはきみがくれたものだ

かなしみというものだ

俺はそれをどうするでもなく

ただおもむろにポケットにしまう




まぶたを忘れるほど

夕陽が落ちていた

拾うのも勿体なくて

ただ、ぼんやりと眺めていた




くたびれた鞄と体をせおって

気づいたら自分のことばかりになって

町の端っこまで歩いていたら

世界には自分だけだって気がする




苦悩なんて名前の

大仰なそれはどこにもなくて

ちっぽけな自分の背中が

抜け殻のようにさまよっていた




おぼえたてのかなしみに

長くのばしたライターの火をつけて

溜め息ばかり長くなる口を

かなしみで塞いだ




くしゃくしゃの煙草を

ゆらゆらと揺さぶっては

ただ、ぼんやりと夕陽を眺めて

俺は、俺は、ただ

これでいいのかって気がした




何もこたえない俺の抜け殻を

くすぶったこの町の夕陽に

高く高く投げあげて

俺は、俺は

これでいいのかと夕陽に尋ねる




溜め息ばかりが風にまざっている

こんな日はただ

まぶたを忘れるほど

夕陽を眺めるよりほかにない




沈むより先に

さよならと手を降って

まぶたを忘れるほど

眺めるほかに

なにもなかった






携帯写真+詩 【うめぼし】 Copyright 檻野楴人 2008-06-18 22:57:02
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