テレビのこと
吉田ぐんじょう

きゃはきゃは と小さな笑い声がした
留守番をしている日曜日
レースのカーテン越しにガムシロップのような
とろりとした陽光が射していた

読んでいた本を伏せて
誰もいないひんやりとした畳を這い
笑い声の聞こえてくる場所を探った
そこはテレビの裏側だった

コードがうねくっていて埃の溜まっている空間に
司会者のような派手なジャケットを着た男の人と
レースのふわふわしたドレスを着た女の人が
しゃべりながら笑っていた
どちらも小指の爪ほど小さくて
ぷっと潰したら死んでしまいそうだった

眼をこらしてみる
その二人を知っていた
先週テレビに出ていた二人だった
ああ やっぱりテレビの四角い画面の向こうには
小さい人たちが居たんだ と思ったら
二人はわたしに気づいて
びっくりするくらいの速度で逃げていった

その後どうしてか
その二人をテレビで観ることはない
見つかってしまったからかもしれない

あれから
薄型テレビが普及して
テレビの仕組みもよく分からなくなった
いくら裏側を見に行ってもそこには誰もいない
ふわふわ埃が舞うばっかりで

さびしい と思ってしまう

電源を入れると
そこには鮮やかな色と
殺人事件ばっかり流れていて

もう留守番をすることもないわたしは
TBSの正式名称が
Tokyo Broadcasting System, Incである
とか
無駄な知識ばかり得ている



自由詩 テレビのこと Copyright 吉田ぐんじょう 2008-06-17 03:14:09
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