水風
朝原 凪人

海だった

湿度百十五パーセント
水蒸気の飽和したの六月の風
ビルに囲まれた灰色の世界に
潮騒と潮の匂いを届ける
風が吹き抜けるこの街は
海だった
気付いた君
ぬめついたアスファルトから
すっ、と足を離し
ふわ。りと身体を宙に投げる
明日の天気を占う様に
靴を蹴り上げた反作用
街路樹の合間をすり抜ける
地球を後ろに蹴りつけて
毎日歩き続けていた君は
いつもより心軽やかに
纏わりつく服を脱ぎ捨てて
水の風
からだに纏う
羽を持たない君が宙を泳ぎ
ヒレを持たない君が海で羽ばたく
海底から見る
水面のあをは
海の青と穹の蒼
どちらの色だろうかと思考しながら
君は穹という名の水面を見上げる
六月の水の風の匂いに包まれながら


自由詩 水風 Copyright 朝原 凪人 2008-06-14 22:19:31
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