灯台守のポートレイト
りゅうのあくび

嵐が去ったあとの
うっとりとした
天気雨がふる夜に
穏やかな波が渚に
はじけていて
潮のよせる音が
白い灯台の中でも
吐息のように響いている


塔のてっぺんの方へと
約束をした部屋を目指して
背負ったキャビンの油彩画には
鏡の前にある浴槽に
横たわっている
裸身になった恋人が
描かれていて
背中に載せながら
ゆっくりと運んでゆく


途中で恋人が描かれた
未完成のポートレイトがぬれて
しまわないように
差していた紺色の傘を
閉じては巻きなおし
左手には
画材を抱えて


翼の傷ついた天使が
舞い降りたときの
輪のような
宙へと浮かぶ円形をした
らせん階段を昇り
駆け落ちの部屋へと
向かいながら
ついに秘密の部屋へとたどり着く


終わりのない
冬の海の向こうには
外国に渡る船の
小さな航跡が記されていて 
月夜の明かりが
窓辺から
綺麗に差し込んでいる


白い塔にそびえる
最上階の部屋には
暑い夏の季節に
誰かに宛てて
海へと投げ込まれた
メッセージボトルに
入っていた海水のように
まだ暖かく
硬いクリスタルでできた
長い浴槽がある


月のひかりが触ってくる
うっとりとして透明な浴槽で
恋人の肩より下の身体は 
潮の満ちる月夜の空のした
深い紺の色をした海となる
一匹のドルフィンとなって
恋人の波のあいだを 
夜が明けるまで 
月が沈む場所へと
しなやかに伸びをしながら
泳ぎ続けるドルフィンは
熱くなった海の中で
揺れながら恍惚に溶けてゆく


そして恋人が
横たわっていた
浴槽での情景を
まなざしに焼き付けて
油彩画の続きを
描き始める


白い塔は
少し斜めの方へ
そり返していて
降り続く
しっとりとした
真夜中の雨をつらぬいて
そっと夜空の
奥にまで届いていく





自由詩 灯台守のポートレイト Copyright りゅうのあくび 2008-06-14 00:22:57
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