食材調達
北村 守通

雨もあがって
釣りに出る
高知新港外防波堤
潮の香りを再認識し
オバチャン達の間に入る


誰の浮きも沈まない
昨日は良かった
お決まりの挨拶
ウンチク好きのオンチャンの
自慢話に相槌を打つ

でっけぇ鳥が
不意に後ろに立つ
ゴルゴだったら
許さない位置だ
そいつがじぃっと
浮き見つめるが
まだだんれの浮きも沈まない


張り詰めた空気が
流れない
凪いだ潮が
動かない
鳥も飽きたか
諦めたのか
どこか彼方に飛び去るが
どっこい
オバチャンずっしり構え
オンチャン手を変え
品を変え
じっと
じぃっと
その時を待つ


ふと
はるか彼方で
黄色い声があがる
でっけぇ
推定四十五センチを越える
白銀色の
黒くない
黒鯛があがる
蚊柱のごとく
人だかりができる


悔しいから見ないようにする
用意した仕掛けについて後悔するが
用意できていたところで
こちらに掛かったものかどうか考え
納得させる
しかし
やっぱり気になる

色からすれば
居着きではない
流れ者の魚だろう
哀れ
回遊してきてみれば
待ち構えていた罠にはまったというところか
同じ回遊の身としては
ちょいと同情
足下のコマセに
蠅が群がる


ふと気付く
回遊の魚が掛かったのなら
潮は動き始めたということか
隣見れば
案の定
オンチャン
オバチャン
空気が変わる
目の色変わる
姿勢が変わる
竿の位置が変わる
竿の曲がりが変わる
仕掛けの色が変わって
銀色がいっぱい付いている
アジ
サバ
イワシ
満員御礼
オバチャンの顔が一瞬ほころぶが
次の瞬間には
仕事人のそれに戻ってる
オンチャンの
ウンチクがまた始まって
相槌打ちながら
自分の浮きに集中する


今度は自分
自分の番だ
三つ向こうで掛かる
二つ向こうで掛かる
隣で掛かる



二つ向こうで掛かる


飛ばされる


ガックリ
うなだれ
オバチャンの方を
恨めしく眺める
飛び去ったはずの鳥と
目が合う




笑ってやがる


その時
ふとオンチャンに
肩叩かれた



「兄ちゃん!掛かっとるで!」


自由詩 食材調達 Copyright 北村 守通 2008-06-13 00:40:59
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