暗闇に吊るされた、心臓。 
服部 剛

 それは激痛すらも無く 
 いつのまにか緩やかな時のまにまに 
 我胸からえぐり取られた 
 空虚の闇 




誰もいない深夜の映画館の 
スクリーンに映し出される 
遠い夢の浜辺 

押し寄せる潮騒のほとりを 
揺らめき沈む夕陽へ走る 
懐かしい面影達 

あの日僕から背を向けて 
砂浜に連なる足跡だけを残し 
夢の浜辺を遠のいていった 

君の背中よ
 


 時のまにまに空いていた 
 我胸の暗闇に 
 張り巡らされた蜘蛛の巣から 
 一本の糸が解けた先に 


 吊るされている、赤い心臓。  


 青白い顔で 
 薄っぺらな希望を乞う 
 もう一人の僕の問いに 
 暗闇に吊るされた心臓は 
 白い口を開いて笑い 

 心音だけが 
 いつまでも繰り返し 
 闇に響いていた 





自由詩 暗闇に吊るされた、心臓。  Copyright 服部 剛 2008-06-12 20:27:13
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