ネット遊泳
渡 ひろこ

たっぷりとあふれんばかりに湛えて
こぼさないように歩く
ネットの海に棲む詩人が紡いでいる
いつまでも色褪せない
磨きこまれたナイフ
のような綴りに痺れ
少しでも掬い取ろうとつかんでも
手のひらには 模造品
の残骸がくだけるだけで



一滴の飛沫さえと
舌をのばしてもとどかず
水面からの
しなやかな
手まねきに惑わされ
自らもとめようと
行間のふちにつま先立ち
目をつむり潔く飛びこんだ
大海原で



きらめく真珠のひと粒を
見つけようともぐっても
吐き出される想いの
膨大な波に押し流され



卵のように
次々産み出される
ブログやサイトの殻を割っても
中身はなまぬるい
たれ流しばかりで
かきまわしても
指先は核心を探りあてられず



うまく波乗りしてたつもりが
温もりや言葉に飢え
癒しをもとめて
タムロするヒトたちの
ゆらめく海草の森に迷いこみ



仮面をつけて
互いに傷を舐めあいながらも
競ってむさぼる蜜の滴りに
夢中になり



いつのまにか
妖しく踊る海草に
足元をからめとられて



気づいたら
破水してしまったかのように
自分から漏れ出る
《価値観》のぬかるみに立っていた







それはひたひたと満ちてきて
岸をもとめてクリックしても
深みにはまるばかりで


何がイイのかワルイのか
わからなくなり
溺れそうになったワタシに


あっけらかんと


  (げ・ん・て・ん・か・い・き!)


そう耳元で囁き手を差しのべたのは



波間を漂ってきた
一冊の本だった




まっさらな/かみに/たゆたう

        ひらたい/にほんご



バーチャルもハンドルネームもない
ざらついた紙の手ざわり






       *





やわらかな
午後の陽だまりの中


ネットの海からあがり
こうら干しするワタシは



閉じられた
ノートパソコンの上
しおりをはさんで横たわる



た・に・か・わ/
    し・ゅ・ん/た・ろ・う と昼寝する







自由詩 ネット遊泳 Copyright 渡 ひろこ 2008-06-10 19:40:50
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