パンと。
プル式

何かを食べねばと思い
毎日何かを口にするのだが
それがなんなのか
今ひとつわからない
ある日の晩に
思い切ってそれを
まじまじと観察してみたらば
うにうにと何かが動いていた

翌日から私は
何も食べる事が出来なくなった

食べる事を忘れ始めた頃
だれだか知らない女の人が
私に小さなパンを一つ差し出した
私は出来るだけ丁重に断ったのだが
その人はどうしても食べなさいという
仕方が無いので
受け取るだけ受け取る事にし
そのパンを包んだ紙はそのまま
どこかにしまってしまった

それからしばらくが経つと
私は何も感じなくなってきた
風呂や生活や家族や
すべてが遠い話の様に思えて
ならなくなった

私は急に恐ろしくなり
何かを食べねばならないと思った
しかし私には食べられる何物もなかった
そうだ女のくれたパンがあったはずだと
あちらこちらを探してみたらば
真っ黒になったパンが一つ見つかった
私はそれを口にして
初めて生きているのだと実感した。


自由詩 パンと。 Copyright プル式 2008-06-10 01:20:58
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