かなしい、かなしい
________






かなしい
かなしい

と思っていると
なにをかなしいと思っていたのか
わからなくなってしまった
返事を期待しないきみのなまえを
部屋のそこここに置き散らかしたまま
膝をかかえて座る午後



思い出すきみのからだ
粘膜に触れると
「ああ、生き物なのだ」と感じさせるんだったなあ
そういえば


ウミガメの産卵
樹液
生まれたばかりの子馬
それから、SF映画に出てくるエイリアンの肌も

みんなてらてらと光っていて
しっとりとあたたかく見えるので
ぞっとして
そして、安心する
「死」にとうとう出会ってしまったきもちになる
大好きな人に食べられているきもちになる


きみを失ったくらいじゃこわれないぼくのからだは
どうしようもなく生き物で、
残念だな
とっても

どうして食べてくれなかったの
どうして



ぼくはもう何がかなしいのかわからないよ
心配しなくてもきみのことなんて
いつかきっとわすれちゃうんだよぼくは
生きているからきっとわすれちゃう

かなしい
かなしい
だけど何がかなしいのかわからない
いまは、それが、かなしい








自由詩 かなしい、かなしい Copyright ________ 2008-06-09 23:35:12
notebook Home 戻る