ノート(入口)
木立 悟





火と火の違いもわからぬうちに
わたしたち とは語らぬように
言葉への畏れを絶やさぬように


入口にある目は
実の奥にある目
森をひとつ逆さまに呑む


水を見たらすぐ
左袖を見る
失いもののかたちを描いては消す


秘密はふいに目の前にある
飛び去る鳥の
背の影として


己れはある 己れはない
指の高さに沿うことなく
指の重さを忘るることなく


金と緑と他者を見よ
声を洗う波を見よ
おまえをけして見ぬものを見よ


見つめることは見つめられること
指のはざまの風車
常にくちびるにさらすということ


ひとりをひとりに歩めぬものに
ひとつ以上の悲しみはない
鏡と傷をくりかえす道


手のなかの無が咲いてゆく
それをひとり見つめること
無に見つめられつづけること


花おおう花 降る言葉
誰ともすれちがうことのない道を
蝶と蛾の足跡はつづいてゆく














自由詩 ノート(入口) Copyright 木立 悟 2008-06-07 22:26:56
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