陰のひと
山中 烏流






 
満ち満ちる
そうして、あなたは
ほの暗さと等しく
すぐ先のことを知る
 
生温さを聞くのなら
灰色は
多分、味方なのだと
 
そう言って
私はいつもより
透明に、なった
 
 
******
 
 
針金は戻らない
あるいは
つぎはぎされた糸目が
それを許さない
 
これは
いつもより、凪いだあとの話
 
手折った何かの下で
あなた、が
笑っている
 
 
これは
いつもより、凪いだあとの
 
私、もまた
笑っている
 
 
******
 
 
小さな声は
窓際を装う色で
頬の横を過ぎる
 
呟いたそのひと
その輪郭は
どこか、私に似ていた
 
 
 (耳たぶが痺れるように
 
 
醒める、
 
 
******
 
 
くるくるまわす
みずたまりがとぶ
なきがおをうつす
あおぞらにさく
 
うちおとさないで、と
いのりながら
 
くるくるまわる
ひとりごとのせなか
なきごえをとばす
にじのみそら
 
 
******
 
 
爪の音がした
 
一度弾いてから
擦り合わせて
それから、そして
そして
 
 
あなたの指先は
水滴のように、冷たい
 
私のはというと
これもまた、等しく
冷たかった
 
 
******
 
 
繋いでいたいのは
温かいものと
鮮やかなもので
 
それはきっと
あなたでは、なくて




 
 
 
 
 
 


自由詩 陰のひと Copyright 山中 烏流 2008-06-04 22:50:11
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