夜と唱
木立 悟





葉桜のむこうの
三つの波
つながれていたものは放たれて
水辺をめぐり 戻り来る
青に灰に
くりかえす


ひび割れ倒れる間際の硝子に
まだ名のないものが映っては
光とともに散ってゆく
雨が抄う幾つかの音
水から水へ遠のく色


影も 木も
木の影も
水のように水に立ち
すぎる姿にそよいでいる
欠けては流れ
ふたたび満ちる
ひらきひらく
静かな波


からの緑の器のなかに
透明なひとつの台形のうた
人工の光 鉛の線
何もない明るさに照らされてはじめて
うたに沈んだ指を見つける


水のなかの夜に覚め
水にも夜にも忘れられ
雨の上を昇る雨
河口の鳥の背を聴いている
放たれたものを映す波
海わたる火を聴いている


渇いた影に霧雨が来る
ひとつが途切れる大きさまで
紙は折られ ちぎられつづける
陽は三つ 陽は五つ
ふくよかにしたたり
幾つもの指をすぎてゆく















自由詩 夜と唱 Copyright 木立 悟 2008-06-01 14:53:21
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