シャウト
砂木



おばちゃん お花綺麗だね
小さな甥の手をつなぎ散歩をすると
道端の花にみとれて
顔を近づけては嬉しそうで
お歌を歌いながら林檎畑を歩くのは
葉っぱ一枚震えるのにも 笑みがこぼれた

音楽が好きというのは生まれつきなんだろうか
ホルン 指揮 トロンボーン
歌いながら 手をつないで歩いていた子が
舞台の上で演奏している

おばちゃんにもかしてみてと
いつだったか マウスピースを吹かせて貰ったが
まったく音がでない
おかしいんじゃないというと
甥は 笑ってばかり

高校の定期演奏会に誘われていくのは二度め
休憩をはさんでの二部の舞台に甥を見失う
家族がきょろきょろ捜していると
客席の通路 しかも目の前を走り
舞台の下で三人で歌い始めた
歌謡曲のコーナーで
生徒さん達の演奏にあわせて
二曲めは サングラスなどかけている

誰に似たの?
父に聞くが父も 笑ってばかり
弟を越えたななどと 喜んでいる
母に到っては 泣けてきたらしい
いつのまに人前で
うけを狙おうとするまでになったのだろう

小さな甥が生まれた時 みんな嬉しくて泣いた
でも近くの病室で生まれたばかりで
亡くなった子もいた 
奇跡的にあなたは ここにいる
あのこがあなたでも不思議はない

舞台挨拶が つまづいてしまった子には
頑張れの声援と 拍手が送られた
家族が多かったのだろう
部員達が一軒一軒歩いて
寄付を求めたお店や会社の人も
きていたかもしれない
応援しようという空気が客席から溢れた

私は小さな甥と歌って歩いた散歩を思う
お花きれいだね
あっ 葉っぱだ
すぐに走っていこうとする手を握った
あぶなくて離せなかったけど

目の前を走り去って舞台にあがる
もう 手は翼になっている

拍手で風がおきるのなら
精一杯 たたくよ

風にのり 飛んでゆけ
小さな演奏者よ





 



自由詩 シャウト Copyright 砂木 2008-06-01 10:07:22
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