雨宿り
西日 茜

おそらく灰色の 町外れの停留場は
傘の上のダンスの 懐かしい音がするので
目玉の星が キラキラ光ってしまう

セルロイドは酸性雨に弱く
ネジ式の動力で
スキップをしながら溶けそうにしていた

ボクはキミに 長靴を片っぽ履かしてやった

ありがとうも言わずに ブカブカの
うれしそうに飛び跳ねた
その拍子にピチャンと水溜りに落ちて
セルロイドは跡形もなく消えた

今のは何だったんだろう…

水溜りに浮いた 片っぽの長靴
ボクは黙って拾い上げ
中に溜まった水を捨てて 履いた
つま先にチクリと何かが刺さった

ボクの足は とても熱くなって
踊りたくなって そこらじゅう蹴飛ばして
セルロイドみたく スキップした


傘を放り投げ バカみたいに踊った


気がつくと バスが来ていた
乗っていた人々がボクを見て
ニヤニヤしている
ボクは恥ずかしかった


何日かして 雨の日の停留場にひとりでいたら
いつの間にか セルロイドがそばに来て
ボクの両方の長靴をくれとせがんだ

両の長靴を履いたら
キミはどこかに飛んでいってしまうのだろう?

ボクは片っぽしか履かせなかった

そしてまた キミが溶けるのを待って
黙って片っぽの長靴を拾い上げる

今度もチクリとするが
前のようには踊らなくなったボク


雨はいつまでも降り続いた



自由詩 雨宿り Copyright 西日 茜 2008-05-31 14:54:17
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