[各駅停車]
東雲 李葉
お給料が入ったから貴方の好きな煙草を買った。
仕事嫌いな貴方でなく肺のきれいな私のため。
友人に愛を告げられたから好きだったあいつに電話をかけた。
君は誰だと問われた挙げ句無言の後に電話は切れた。
特急電車は笑いながら走り過ぎていく。
溶ける景色が嫌いだから乗らないだけだと嘯いて。
ああ、巧くいかないもんだ。課題は減らずに溜まる一方。
友達に大事を委ねてみたけど最近あまり信じられないし。
懐かしい声がしたから記憶の糸を手繰ってみた。
実は知らない人だったりしていい加減さに呆れ果てる。
素直に好意を受け取れないのは根っこの所為だと言い張って。
芝居口調の彼の舞台で大根役者を演じてみたり。
可愛かったあの人は今も変わっていないだろうか。
いつかのようなこんな雨の日に二人だけで話したい。
今まで好きになった人、まだ一つも諦めきれない。
女性雑誌が勧めるほど忘れることは容易くない。
お兄ちゃんが欲しかったと幼い頃に駄々をこねた。
両親以外に甘える人があの頃の私には必要だった。
弟にあげた人形は要らないから手放したんじゃない。
大人になりなと周りの目が鋭く尖って私を見たから。
従弟に淡い恋をしたのは慈しみよりも赤い感情。
夏の暑さにほだされたのと格好つけたりもしたっけ。
赤い色から橙へは違和感なんてを感じないのに。
橙色から赤色へは苦汁を含まなくてはならない。
お給料が入ったから貴方の好きな煙草を吸った。
癖になる前に止めなくちゃ。煙の向こうに昨日が見える。
友人は愛を告げたけど私は未だに答えられない。
だからあいつの声が聞きたいのに。
特急電車はいつまで待っても私を乗せない。
景色を溶かして忘れるなんて鈍行列車じゃ出来ないのに。
昨日なんて駆け抜けて新しい自分を見つけたいけど、
煙草の煙に噎せこむ私は未だ各駅停車駅。