誰かのために生きること
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氷山にぶつかった豪華客船が
冷たい海に沈んでいくのを見ていた
世界中が感動した名シーンに肖って
キザな台詞を吐いてみた
「もしこれと同じ状況になったら
命を捨ててでも君を守るよ」
それに大した意味は無かった
でも君から返ってきたのは意外な言葉だった
「そんなことされても重たいだけだよ
残される人の気持ちも考えてよ」
ばつが悪くなって僕は言い返した
「それなら君なら一体どうする?」
「私だったら…一緒に死ぬかもね」
「死ぬなんて最低の行為だよ」
「どうして?生きることが絶対的に正しいとでも言うの?
それなら救命ボートの中を見てよ
女性や子どもばかりでしょう
こういう時、男は死なないといけないの
死ぬことでアイデンティティを守らないといけないの
でもそんなのは本当の強さじゃないと思う
誰かが犠牲になって誰かが生き残る
そんな世界本当に成立していると思う?
それなら私は運命に身を委ねたい
どうせ死ぬなら二人一緒がいい」
君の話は難しくてよく分からなかった
だけどなんだか説得力があって
返す言葉が見つからなかった
今まで僕は
誰かのために生きること
誰かのために命を架けることは
素晴らしいことだと思っていた
人間の本質だと思っていた
だけどそれは傲慢な考えなのかもしれない
自分自身を支える力の無い奴が
一体誰を守れるというんだろう
無理して荷物を背負おうとしたって
僕の悲しみは君の悲しみで
その逆もきっと真実なんだ
映画のクレジットが流れ終わって
DVDをデッキから取り出した
「それでもやっぱ僕は死ぬのは怖いな」
「それなら最後まで考えるよ」
「考えるって一体何を?」
「二人で生き残る方法だよ」