ガラスの箱
tanu

爪よりも薄いガラスの箱に
僕は閉じこもっている
時々ガラスの表面に傷をつけては
そこから流れ出るどす黒い粘液を舐め
その苦さに顔をしかめる

これまで膨張と収縮を
繰り返してきたガラスの箱は今
収縮の一方向だけに
動き始めている

箱が収縮するたびに
息苦しさが増し
息苦しさが増すたびに
僕はガラスを激しく掻き毟る

ガラスの箱から抜け出すことは出来ない
ガラスの箱を壊すことも出来ない
ガラスの箱は
僕そのものなのだ
ガラスの箱から抜け出せば
僕は僕でなくなってしまう
ガラスの箱を壊せば
僕自身が壊れてしまう

どれほど窮屈でも
どんなに息苦しくても
僕はここに閉じこもっている

僕は知っている
僕自身が発する熱で
内側からガラスを溶かすしか
この箱を消し去る方法がないことを

僕は知っている
自分が灰になるかもしれない恐怖が
僕を怖気ずかせていることを

僕は知っている
必要なのは
勇気ではなく
狂気であるということを

狂気が噴き出すには
もっと息苦しさが増さねばならないだろう
箱が収縮し切って
僕の身体に密着するとき
僕は狂気を選ぶか死を選ぶか
それは僕にもわからない


自由詩 ガラスの箱 Copyright tanu 2008-05-27 22:21:58
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