『近視』
東雲 李葉
二つのレンズを外して見る。
境界なんて空には要らない。
分かってやれよ利口な人。
本当は誰より無知なだけ。
『近視』
二つのレンズを外して見る。
景色は海の底にも似て。
光はぼやけて遠退きながら。
思い出は近く発光する。
天気予報も信号も
確かなものなど何も無いのさ。
ラッシュアワーもバニラアイスも
僕にかかれば同じこと。
二つのレンズに隠れた目は
本当の自分を知らないまま。
悪いことではないはずと
咎めてなくても訳を並べる。
会いたい人の顔さえ知らない。
なのに止まない愛しい耳鳴り。
塞ぐ指には力が入らず
零れる滴に視界が霞む。
二つのレンズが割れてしまった。
景色は海の底にも似て。
はてしなく青い空を見た。
思い出は遠く微笑する。