「罰(punishment)/夢」
ソティロ

「罰」




1.スラム

スラムを歩いていた
黒人のドラマーが路上で演奏している
ある道を選ぶと、
小銭を支払わなければいけない
ぼくは背中にギターを背負っている
(いつの間にかそれを失うのだけれど)
狭い路地で
黒人たちとすれ違うとき、
ぼくは両手を挙げていた
害意のないことを示すために
武器を持っていないことを示すために




2.処刑場

動物園の
しろくまの舞台のような所
柵で隔てられて
堀が設けられて
向こう側には裸の人間が
十人くらい
こちら側は道で
もっと大勢の人だかりが出来ていた
こちら側の人間はそれぞれ拳銃を持っていた
進行方向の右側が舞台だった
ぼくは通り過ぎるときに
やはり両手を挙げて、
人間の隙間を抜けようとしたら
二人組みに呼び止められた
彼らはあちら側の人間たちを指差して
お前にも一発打たせてやる
と言う
あちら側の人間はそれぞれ体の一部を
赤や黄のチョークで仕切られて
それは手首だったり肩だったり
その部分はその人にとって大切な部位なので
打ってはいけないらしい
あちら側の人間たちは
それぞれ腰縄で繋がれていたかもしれない
柱に括り付けられていたかもしれない
先ほどの二人組みの一人は
ぼくに拳銃を握らせて
あの女の胸を何発打てば無くならせられるか
などと言っていた
ぼくは少なくとも気は進まなかったので
遠慮した




3.波

立ち去ろうとしたとき
左側にある海が荒れて
波が押し寄せてきた
こちら側の人間たちは
それに攫われないように逃げ惑う
裁かれるべきものを裁く行為に対し
罰が下るはずもない
というようなことを言いながら
自分の正しさと安全を主張していた
そうゆうことを言うのは恐ろしさを感じていたからだ
ぼくは最初はただ足が濡れないように
右往左往していたが
じきに波の隙間を縫って
もっと奥へと向かった
やがてそれは自然と道になって
多くの人をそちらへ向かわせた




4.ビル街

いつの間にか電気街のようなところに居た
ぼくはそこで職を探している
やっと見つけた仕事先に電話をかける
仕事を取り付けて現場へ向かった(おそらく電車で)
事務所があるのはビルの中ほどのワン・フロアで
病院、あるいは銀行の待合室のようなところで
作業服に着替えた人たちが名前を呼ばれるのを待つ
ぼくは規定の作業服を持ち合わせていなかったので
持っていた間に合わせのものを着た
こなれた人たちが談笑をしていて
ぼくは待った
でもいつまで経っても呼ばれることはなくて
最後の一人が呼ばれたあとに
確認の電話をかけなかった方には仕事をご用意しませんでした
という内容のアナウンスが入った
つまりぼくはそれだった
こなれた人たちの中の一人も同じくミスを犯したので
ロッカー・ルームへ歩いた




5.書店

書店での出来事はあまりよく憶えていない
児童書のところに絵本コーナーがあり
こどもたちが遊んでいる
そこに卑猥な本が紛れ込んでいた




6.踏切

皆で話しながらぶらぶらと駐車場へ向かった
どんな車だったかは覚えていないが
とても楽しかった
ぼくは後部座席にいた
車に乗ってからも話は続き
でもそれらの事たちは次の悲惨な出来事のために
あらかた忘れられている
踏切に差し掛かったとき車は先頭だった
何本もの線路を渡る大きな踏切で
バーが降りていて列車の通過を待った
その時車のなかはすごく楽しかったことを憶えている
そのうち一人のみすぼらしい老人が車の前に現れた
頭髪は白髪で薄く、首や手は汚れ、
深緑とも茶色ともつかないTシャツを着ていた
少し車内の雰囲気が変わった
ぼくは後ろからその老人を見ていた
老人はおもむろに線路へ進みだした
奥の方のレーンを列車が通過する
まだ老人はそこまで進んでいないのでほっとした
老人は同じペースで進む
やがて多くの列車が通過しだす
彼は前を向いたままこちらに見えるように親指をたてるしぐさをした
高らかに
三本目の列車は彼の居る線路を走っていた
このままだと衝突することを全員が悟って
車内はざわめいた
皆が目を背けるなか
ぼくはどうするべきか考えていた
見るほうが、見ないほうが、どちらが正しいのかを
でも直前になって反射的に目を瞑ってしまった
ゴッ という鈍く、驚くほど大きい音を立てて列車は老人を轢いた
車内はひどく重たかった
誰一人老人に駆け寄るものはいなかった
バーが開いて、車は発進した
老人の居た場所にはなぜか穴が開いていた
驚くことに老人は依然歩いていた
その横を通ったとき
頭蓋の半分を失ってひどく醜くなった老人を
ぼくは見た




7.宴会

細長いテーブルに大勢が座って飲み会が始まった
ぼくは真ん中のほうの席で右側の人たちと話していた
料理や飲み物が次々と運ばれてきて徐々に参加者も集まってきた
そのうちに先ほどの仕事場の人たちと思われる左側のグループ
に属するぼくの左に座っていた女性が
もたれかかって来た
それといって特徴のない知らない人だった
ぼくはその人の肩を抱いたり髪の毛を撫でたりしていた
あたまがすごくちいさくてぼくの手によく馴染んだので
ぼくはその人のことがとても気に入った
ぼくたちは言葉を交わすことはなかったし
別のグループに属していたけれど
からだは常に密着していて
時々気ままに触れ合った
それだけはとても静かだった
ぼくは好きな料理を後で食べる癖のために少しずつ残していた
そのうちに首謀者と思われる人物が現れて
宴の終わりを告げた
ぼくはこれから食べる料理のことを主張しようとしたが
むしろ逆にきちんとぼくだけには制限時間を伝えてあり
またぼくがそのことを皆に知らしめる役目だったはずだ
という風にその男に厳しく指摘された
ぼくはそんなことは知らなかったので憤ったが
反論はしなかった
周りの人々は気にかけていないようだった
ぼくと先ほどの女性は連れ添っていた




8.記念撮影

席の奥の方で記念撮影がはじまる
三列か四列に並んでカメラが用意される
ぼくとその女性も列に呼ばれて並ぼうとした
その時店の奥がざわめいていた
なにか起こったらしい
ぼくはとりあえずテーブルの下に隠れた
皆は並んだままだ
するとマシンガンを持った男がぼくらの部屋に現れた
皆はざわめいたが記念撮影の列は崩れず
意外と大丈夫そうな様子だった
そのうちマシンガンを持った男はぼくらのほうへ近づき
銃口をぼくに向けた
引金をひき、無数の銃弾がぼくに当たった
当たった。銃弾は貫かなかった
よく見ると弾はゴムのようなもので出来ていて
痛みは感じなかった
でもぼくは銃弾を浴びながら
悲鳴を上げた
群は冷ややかな目をぼくに向けた
ぼくは
本物であればよかったのにと願っていた
ぼくが見過ごしてきた多くのもののための
罰として




そこで目が覚めた





     
2008/05/25


自由詩 「罰(punishment)/夢」 Copyright ソティロ 2008-05-26 17:57:30
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