雨の記憶
高杉芹香

初恋の人は 今も地元にいる。

小5から高1まで彼のことを想っていた。



28才のときに再会して 結婚しようって言われた。

けど。

あたしは東京での仕事と生活を選んだ。



数年経って彼は地元の職場の後輩と結婚した。



結婚してから。

連絡がぴたりとなくなって。



彼はやっぱり そのときの恋愛対象に一途な人だったということを再認識した。

いい人と恋してたんだなって自負したりした。

彼は長身で笑顔が可愛い人だった。




ほんの少しの優越感は。

彼が あたしと彼の誕生日が絡まったメアドを使い続けてることで。

新しい彼女が出来ても、結婚しても、そのメアドを使ってるってことがほんの少しの優越感だった。




それから数年。



メールなんて滅多に来ない。

あたしも 自分から彼にメールしたりしない。



ついこの間。

「あのメアドを彼が今も使ってる確信なんてないじゃん。メールのやりとりがこんなにないんだから。」

なんてふっと思った。




そんな今日。




彼から不意に

「元気ですか?」とメールが来た。




「こっちは雨です」・・・。







なんてことないメールだ。

何を言いたいかも図れない。



けど。

わかる。




あたしもよくやってしまう。



言いたいことは言わない・・・そんな大人の強がりだ。



言いたいことがあるとしても、
ほんの少しの、ほんのわずかな倫理観と現実感に制御されて

ことば少なに 相手の今を慮るだけのメールを飛ばす。

そう・・・きっとそんなとこ。





雨が降る景色を見て

彼があたしを思い出したのだとしたら。




あたしと彼の 最大の想い出は

やっぱり 雨の中に残ってるんだと思う。





あたしも 雨の雫を見るとき よく あなたを想い出すよ。



・・・





そんなことは伝えないまま。





『こっちも夕方から雨だそうです。お仕事がんばってね。』

そんな 大人になった2人の今が過ぎていきます。



散文(批評随筆小説等) 雨の記憶 Copyright 高杉芹香 2008-05-24 14:15:46
notebook Home 戻る