熱海の墓標
あすくれかおす
雨曇りに包まれた
135号線沿いの海を
古い友だちと歩いている
どんどんどんどん歩いてく
楽しくて嬉しくて
侘びしくて泣きそうだ
沖に見えるブイは春雨の墓標で
分からないまま生を降り落ちてきた彼らは
そのまま凪に融け込んでいく
風化された時代も遠のいて
砂浜に終戦記念の波線が残ってる
静かな街を背景に
私は生かされたまま
焦がされたまま
「そろそろ彼を見失ってしまった?」
どこでも声が聞こえてくる
プレハブ小屋の木片を踏めば
泥濘に沈む感覚だけ伝わってくる
「ふたご座、もうすぐ30代。九州出身、女性です。がんばります」
私は小さな声で
古くさい宣誓をしてみるがなんとも
まるで抑揚のないニュースのようだ
私の悩める世界はたぶん
全ての悩める世界の代弁
退屈の後ろ足をひきずりながら
そんなふうに嘘か本当か
分からないことばかり考えてしまう
私はひたすら歩いてる
どんどんどんどん歩いてる
友だちが豆粒になって帰りを待ってる
だけど呼んでる手招きが
さよならのジェスチャに見えている
身勝手だが聞き分けのよい
私の足は踵を返して
もういちど元の方向へ
私の心は
私の心はひとつ小石を拾って海に投げ
これは春雨への供物なのです と
わざわざ理由を添えてから
もういちど元の方向へ
どうにかなる私の方向へ