まぶたの海
唐草フウ
(1)
まぶたには
海よりもたくさんの
なみだ というものが
満ちては引いて
ときに こぼれます
しあわせな、いちにち
うつむいた、いちにち
わたしは顔をあげて
まるで洗面器にためるように
海をつくります
ながれでたものに
感情をつけるとしたら
「じぶん」になります
かなしいさかなも
うれしいさかなも
およぎます
(2)
完ぺきに歩けない、という者と
完ぺきなんて求めない 女が
手をつないで
フープをつくると
だ円の海ができました
でも手をはなすと
もれてしまうので
どっちも泳ぐことができません
だれも入ることのない
ちいさな海に
さざれ波は少しだけ
ゆれて見つめていました
(3)
海はねむりにつきたかったのだけど
眠ることができずにいました
ああ、月でさえ動いてゆくのに
みうごきが取れないや
海はとうとう泣いてしまいました
すると
にんげんには聞こえない声が
ヒトヒトと起き上がるようにして
(―さかなの群れ、大群!)
海のはたらきを手伝おうとしました
少しだけやわらいだ海に
小雨がふってきて
眠りにつかない仲間を
見つけたようでなぜか安らかになりました