なしくずし
ホロウ・シカエルボク
俺はなしくずしだ、運命よ俺の髪の先を噛め、俺の髪の先にお前の刻印を残せ
俺はなしくずしだ、溝に鼻先を突っ込んで汚れた水を飲む
俺はなしくずしだ、どれほどさまざまな手口を試みてみても何かが必ずこぼれ落ちる
気分だけが高揚で…酷いしっぺ返しを喰らうのだ
俺の名はなしくずしだ、運命よ俺の在り方を台帳に記録したか?
俺は必ずお前の元で無為な一日を構築し続けるだろう
俺のはなしくずしだ、誰もが俺の名前を聞いて鼻先で笑い飛ばすのだ
俺の名はなしくずし、さまざまな記録にそう記されてある、俺の名はなしくずし、両親にもらった名ではない、両親にもらった名などすでに忘れた
俺の両親は俺のために幸せになれなかったから
俺は彼らにもらった名を捨てた、俺の名はなしくずし、俺の持ち物にはすべてそう記されてある
俺の名はなしくずし、誰も彼もが、
俺のそばで不思議そうな顔をして行った、誰も俺の言っていることが理解出来ないのだ
俺の名はなしくずし、すべての総称として俺が勝手にそう名づけた
俺の持ち物には必ずどこかにその名が書いてある
フォントとは違う巧妙なやり方で
何語とも違う独特なリズムと間隔で
俺の名はなしくずしという、そんな風に名づけたことに大した意味などない
どうしてそんな風に名づけたのかなんて俺にだってよく判らないのだ、ただあるときそれはそう決まった、子犬の顔を見て反射的に名前が浮かぶみたいに
俺の名はなしくずし、そんな風に俺は導かれた
なしくずしだ、なしくずしだ、なにもかもすべてそんな風に流れた
俺の名はなしくずし、崩れたものの成り立ちを見ていたり…そんなところには崩れる前よりも愛らしい何かがある
俺はなしくずしという名前を持って生きてきた、それはなしくずしというイデオロギーを持ってそこに存在してきたということだ
いでおろぎー、なんて馬鹿馬鹿しい言葉だと思うかもしれない、だけど
それが潜在的なものであるならそう言わざるをえない部分があるのだ、判って欲しい、俺は自分でも自分の話している言葉がよく理解出来ないのだ
俺の名はなしくずしという、凡百の言葉よりはましだという気がしたからそいつは俺の心中に生き残った、生き残ったけれどどことなくつきあい辛かった
なしくずしに持っていってしまえ、なしくずしに持っていってしまえよ
俺の名はなしくずし、その在り方以外に構築できるものなど何もない
こうしてぼろぼろと
崩れた壁の裂け目めがけて言葉を投げかけてなんになる
ちょっとばかり誰かに気に入られたからってそれがなんになる?
俺の名はなしくずしだ、その名以外に意味などないのだ
なしくずし、という言葉は
心臓の辺りに刺青のように彫られている、それがいつそこにあったのか知らない、俺はそれがそこに生まれる過程を見たことがない
俺の名が生まれたあとなのか、それとも俺の名がそこそこ植え付けられたあとなのか、それすら知らない
短刀を鞘から抜いて胸に刺すと
なしくずしという概念がぼろぼろと崩れ落ちる、ああ、崩れ落ちる前に、崩れ落ちる前に!
ロックンロールでその気になりすぎたんだろうぼうや、ロックンロールで何かに目覚めるつもりだったんだろう、ぼうや?
俺の胸の中身を全部さらけ出してもそこにエイトビートはなかったよ、床はなしくずしでぐっしょりだ
俺の名前はなしくずしだ
俺の名を呼んで欲しい