波葬
佐野権太
屹立した断崖に守られた
小さな浜である
波は平たく伸びて
漂着したものたちの空ろを
静かに洗う
持参した
小瓶のコルクをひねると
砂つぶのような詩がこぼれて
波にさらわれてゆく
その、ひとつひとつ
仰向けになり
鼓膜も、呼吸も
波の振幅にあずけ
海に抱かれる
*
屹立した断崖に守られた
小さな浜である
半ば砂に埋もれた流木の
滑らかな肌を
波が洗う
桜貝の欠片だろうか
ひとつ、拾って
光に翳す
ふと、視線を感じて振り向くと
先ほどの流木であった
人のかたちをしていて
眼窩のように窪んだ部位に
濃紺の海をたたえている