夜の声が
銀猫

異国の時計塔を真似たチャイムが
終わっていない今日を告げ
青白い街路灯や
オレンジに仄めく窓の
表面をなぞる高音は
濃紺の夜に飲み込まれ
いつしか遠い列車の轍の軋みや
姿の無い鳥の声と同化する


雨の上がった湿度を
髪で感じながら
わたしはまだ
まとわりつく哀しさの理由を
探せずにおり、
涙もなく嗚咽している

   泣けない
   泣けない

   ほんとうのかなしみ方を
   忘れてしまった、か
   朽ちかけた心の奥で
   いつかの自分は幽閉されている
   
   ああ、
   指先から生まれる言葉は
   とても黒い色をしている


またチャイムが鳴った
明日ならどこかへ
歩いてゆけるだろう






自由詩 夜の声が Copyright 銀猫 2008-05-20 22:07:16
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