家路
麻生ゆり

電車の中で目をつむると
ずっとトンネルの中にいるような錯覚をおぼえる
でも実際の電車の窓の外には
それぞれの家々と
それぞれの生活を送る
それぞれの家族がいる
そんなことを考えながら
やはり瞳を閉じていると
刹那
まぶたの裏が赤くなった
私はうっすらと目を開けて
その正体を確認する
それは
ビルとビルの狭間から見えた
確かな夕日
私はふと
明日は晴れるのかな?、と
淡い期待を抱いていた
いつも同じ時間に帰るのだから
いつも同じ景色が映るはずだ
だけど永遠は存在しないから
いずれこの光景も
過去のものになってしまうだろう
だから忘れないうちに
私は目を開いて
今この瞬間を心に焼きつけておこうと思う
お洒落なマンション…
賑やかな生徒たちであふれる小学校…
華やかな駅前の商店街…
静かに流れる穏やかな川…
それに遠くに見える山々も
みんなみんな覚えておこう
後でさびしくならないように
みんなみんな覚えておこう
これが私の帰り道


自由詩 家路 Copyright 麻生ゆり 2008-05-20 19:20:14
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