五月の薫り
千波 一也



わたしのなかの夏、が
嘘をついている

生まれたばかりのやさしさと
おぼえて間もない過ちに
うっすら、として
汗をかき


絶え間ほどよく
やわらかく
涙の意味が熟するように
約束、は
交わることを
求めてやまない


くちびる、が
言葉とよく似た
なにかに
慣れて

うた、はもう
手のとどかない真実となる



わたしのための銀色、を
隠しきれずに
夕暮れは

熱をふらせて
近く、にかおる



水がゆえ
水から遠く、
五月を満ちて

こぼれ、
はじまって、ゆく
恵まれた
欠落



正しい呼吸、は
あたらしく

常に
まぶしく
透けてゆく







自由詩 五月の薫り Copyright 千波 一也 2008-05-20 16:40:39
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