「ひろった五月」
ベンジャミン

下を向いて歩いていたら
五月がおちていた

かたちというほどのかたちもなく
いろというほどのいろもない
けれどなんとなくそれが
五月だということは感じられた

そのままにしておくのもあれなので
とりあえずひろってポッケに入れた
入れたあとでもしかしたら
何かの落し物なのかもしれないと

たとえば四月
春の名残をただよわせているところ
過ぎた季節の匂いを包んでいたりする

たとえば六月
初夏の日差しをうつして輝いているところ
むかえる季節のはずみそうな勢いを持っている

けれど
そのままにしておくのもあれなので
とりあえずひろってみた
でもポッケに入れてしまうのもあれだから
お隣さんのポストの中に
まるで郵便配達の人みたいにして入れた


数日後


新聞をとりに家のポストをあけたら
このあいだの五月が入っていて
正直びっくりした

どこをどうめぐってきたのか
僕のところへ届いたらしい
消印らしきものはなかったから
きっと誰かが届けてくれたのだろう

なんとなく
みどりいろの匂いが強まった気がする

そういえば
庭の草花や鉢植えが元気だ

僕は手にとった五月を太陽に透かして
何か見えはしないかと思ったのだけれど

ひかりを吸い込んだ五月は
ぱちんと弾けて風にとけてしまった
ちょっと残念な気もしたけれど
きっとそれでいいのだと

みどりいろの残り香に
僕は次の季節の予感を抱きしめていた
   


自由詩 「ひろった五月」 Copyright ベンジャミン 2008-05-20 00:32:46
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