五月のひと
恋月 ぴの
好きとか嫌いとか
そのような感情と同じ速度で
五月の空はわたしのこころを蝕んでゆく
そして陽射しに揺れる葉桜が
散り行く先など知る縁も無いように
他者への憎しみを
こころの襞奥に抱え込めば
何時しか憎しみはひとつの美しい球となる
その球を慈しみながら
永遠と名付けられた限り在るものに
仄かな恋をしてしまう
触れて欲しいと願わずにはいられなくて
野に咲く花の名前など知るはずも無いのに
流れ行く雲と雲の狭間で
一枚の栞となった
わたし自身の姿を水面に映してみる
乱雑に綴られた日記の片隅に
雨音が恋しいと
あなたは書き残し
遠く離れてしまったからこそ
語り合えることがある
そして
五月とはそのような季節であることを
わたし達
誰ひとりとして歌おうとはしない