飲むヨーグルト、ブルーベリー味
ki

24時間営業のスーパーは
清潔で興奮する
蝿一匹くらいいないものかと辺りを見渡す

軽快なマーチが
終わることなく流れ
蛍の光はもう、ない



キャベツがほどよく水滴を付け
豚肉と魚がきれいにパックされ
牛乳がきちんと殺菌消毒されて売られている
どこのメーカーも揃っていて目の前まで行くと寒さで身震いがした

ゴーゴーと
荒い息を吐く
目が乾く
口が渇く

飲むヨーグルト、ブルーベリー味を手にレジへ向かう

当たり前のように人がいて忙しなく動いている
『そのときだけ私たちは機械です』
そう書いてある名札を付けた女の人が対応してくれた
その人が何を言ってるのかわからなかったけれど
最後の「ありがとうございました」だけは聞こえた


そのまま出るには物足りなくて
お菓子コーナーを物色する
片手に酢コンブと雑誌を掴み
また、レジへ向かう



女の人の「ありがとうございました」だけが聞こえる

僕の番になる

お金を払って商品を受け取る








「ありがとうございました」と 彼女

「ありがとう」と 僕



自分にも聞こえないほどちいさな声



でも、彼女は笑ってくれた          気がした

それは、僕の好きな子に似ていた     気がした








軽快なマーチにのって出口へ向かう

外へ出ると、もう日が沈みかけて

瞬きをすると白い光がチカチカと消えては落ちていった



飲むヨーグルトを真っ白い袋から取り出して
ストローを突き刺す
ブルーベリー味というよりも
甘ったるい鉄分の味で
顔をしかめた

酢コンブの薄いビニルをちぎって
一枚口の中に放り込む

そして飲むヨーグルト、ブルーベリー味

変な味がして
また顔をしかめて

そりゃあ、そうだよな、と
苦笑いをした

雑誌をパラパラと捲った

規則正しく真直ぐ並ぶ文字に
頭で残りかすのようにあの軽快なマーチが反響し
僕もあの名札を付けられそうになる
『そのときだけ私たちは機械です』

蛍の光はもう、ない。



飲むヨーグルトの容器を潰した

白い液体が飛び出した
飲むヨーグルト、ブルーベリー味は
薄紫のくせに牛乳のふりして
地面に横たわっていた

酢コンブを手に取る
指に白いツブツブがついた
それを舐めると
しょっぱいのか
舌が痺れた

後ろを振り向く
夜空に輝くスーパーのネオンは
真っ白すぎて





女の人の顔をもう、思いだせずにいた。



自由詩 飲むヨーグルト、ブルーベリー味 Copyright ki 2008-05-18 07:40:10
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