「放物線」
ベンジャミン
親指にのせたコインを
天井にむかってはじく
くるくるとまわるコイン
僕は一緒になって見上げていた生徒に
「これが放物線になるんだよ」と
たとえ真っすぐに上昇しても
その速さはだんだんと減少し
下降するほどに上昇してゆく
ある変化にともなって
ほかの変化が発生する
僕と生徒のあいだでも
同じようなことが言えると思った
落ちてきたコインを
手のひらでにぎって
「このコインは裏か表か?」と
ちょっと意地悪な質問に
生徒はしばらく考えて
「ウラ」と答えた
僕は手のひらをゆっくりと開きながら
少しもったいぶったような言い方で
「そうだよ 正解だね」と
もともとどっちが裏か表かきめてなかった
だからはじめから正解にするつもりだった
喜ぶ生徒を見ながら
でも本当は
このトリックに疑問を持たず
嬉しそうにしている生徒の笑顔が
唯一正しい正解だった