「ウィルス」
ベンジャミン
見えないものが
ほんのわずかなそれが
あなたを侵している
それはきまって
夜に
ひどく湿度の高い
月がかすむような薄明かりの中で
増殖する
「眠れない」と
呟く
そう
あなたは眠ることもできずに
自分の身体の中で増殖を続けるそれに
侵されている
それはきまって
夜に
増殖する
細胞という細胞に
あなたを構成するすべてに
あらがうこともできずにあなたは
「眠れない」と
呟く
本当は
閉じた瞳の裏にそれが
見えてしまいそうだから
なんて
認めたくない
だけ
ウィルスは増殖して
そのウィルスはあなたを養分にして
異型のあなたの細胞を
まるであなたのようにつくりだす
涙が
出てきます
それはきっと抵抗なのでしょうが
あらがうこともできないで
あなたはやがてそのウィルスになり
一晩中流した涙が
本当のあなただなんて
そうやって熱にうなされながら
痛みに耐えなければ
なんて
また涙が
もう
止まりません
それもやっぱりウィルスのせいでしょうか
きっとウィルスのせいなのでしょう
だって今夜は
ひどく湿度が高くて
月がかすむほどだから
そう呟いて
もっと簡単に
泣ければいいのに
なんて
きっとやさしい慰めじゃない