夏至
モリマサ公

葉っぱたちのとがったきっさきをさっきから風がはげしくゆらして
じべたに並べられた各種弾頭のことを考える
雨上がりのひんやりとしたゼリーのような中を
ゆっくりと自由に空気を押しながら
あたしは記憶や文字のようになってそこにもここにもしみだしている
血のでない体をずるっとひきずって
顔の無い記号のような
鳥が飛び立つ時の感覚で
体から皮膚がうすくはがれて空のように広がる
ビルの内側の石綿の天井やカベの記憶
しらない大勢の男達の汗
ベージュ色のグライダーがすいっとよこぎり無音で
そのよこを風車が汗ばんだようにぐるぐるとまわっている
ここは国境じゃないし
あたしは自分の国を捨てようとして信仰のためにあるいてるわけじゃない
柔らかい
肌を
露出し
わずかな
ひかりを
あびている
骨格以外のものがはがされていくような感覚で
ぼくたちはひたむきにたちつくす
ひろげられた窓のむこうがわでよこぎる飛行機の
中につまっている荷物や

全部とても遠く
エンジンも声もみんな聞こえない
むねや
うでや
あしの内側をなにかざあざあ流れててやむことがない
父親たちの工場が閉鎖されてもう何年かたち
俺たちの家の鍵は
ロックしたままだ
春はまたきた


ねえ
あたしたちってばらばらだったけど
本当はぜんぜん家族だよね?

妹が電話口でちからづよく占いや方角について説明してて
新聞や雑誌の文字たちはふくらんで
湿りながらくっついて重なり
子供が
腕の中で
重くなり
眠たくて泣いてる


燃えている
ほら太陽はいつだって
孤独の中心で自転してる
孤独
という意味の中でつながっているあたしたちは
いつも流動的であふれて
こうしてここにくっついてる影だってみんな
この瞬間もずっと輪郭を共有してて
そしてどこまでもつながってて
いつか戦いは終わるんじゃないかって
ただ
なんとなく楽観視してる

あったかいスープをちょうだい
お皿に1つでいいから
固くなったパンをかみながら
虫の食った毛布をねだって
でもおれたちはみじめじゃなかった
ここは国境じゃなくて
おれは自分の国を捨てようとして信仰のためにすすんでいるわけじゃない
おれたちは無差別なテロリストたちが最初はみんな赤ん坊だったことを忘れないが
さっきからなにかが
よこぎるたびに
忘れてはならないことをまた
今もおもいだしてる
強く
強いひかりがさしてる
かげが無くて怖いのがわかる
からっぽのバスタブ
おいてきたうえきばち
とりが目の高さをよこぎっていく
ポッケの中の千円札三枚これが全財産
パニクりそうだった
のりこえてもおかしくないボーダーがある
開けっ放しの玄関
つけたままの裸電球
ゆれながら
あれはさみしかったのかもしれない
ひざを折り曲げて
折り込んで
ボディーからソールが出そうになるのをおさえこんでる


ヘルプミーがやわらかくふくらんでおなかにたまる
はりつめた鮮やかなブルーの糸がのびて
小枝たちも腕をのばしてる
かげがフエルトのようにやわらかくゆれて

ここは国境じゃなくて
おれは自分の国を捨てようとして信仰のためにすすんでいるわけじゃない


あれはどこ?

ボーダーのラインで人がたおれて無音
やらせのテロップが堂々と画面に飛び込んでざわっとなる
いもうとがマスカラをおとしながらチャンネルを変えて
箱ティッシュから白くてやらかいかみがひきだされる
そもそもデモってだれとだれが?
はなをかみながら
あたしがシャブ中でもきがつかないふりだけが生き甲斐みたいなパパとママがキモイ

あたしたちはみじめだった
ここは国境じゃなくて
自分自身をすてようとして何もかもをやめようとしてる人ひとりすら助けられない

ねえ
あたしたちってばらばらだったけど
本当はぜんぜん家族だよね?

俺たちの家はからっぽになり
ここはもうすぐ夏だ




自由詩 夏至 Copyright モリマサ公 2008-05-16 17:44:20
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
よあけ