胸の上で、
rabbitfighter
仰向けになった僕の胸に、女がうつぶせていた。二人は裸で、繋がったままでいるから、少し動くたびに、女は小さくため息をこぼした。キスをするとその湿った息で、重たくないかと聞かれた。大丈夫、胸の上で寝かせるのには慣れているんだと僕は言う。潰れた女の乳房が僕の胸を圧迫していて、それはトーストパンの上でやわらかくなった黄色いバターを思わせた。もう少し熱くなれば融けだして黄金色に染み込みそうな。肩の辺りに頬を乗せて、女はもう長いあいだ喋ろうとはしない。僕の指の間で流れる髪の毛の甘いにおい、その奥のほうで、何を思うのか、僕にはわからない。繋がったままでいても尚、肝心なところは閉じたまま、僕たちは夜を持て余す。でもきっと、少し、少しかなしい、
昨日の夜は、そこに猫がいた。胸の間の少し窪んだところに座って窓の外を見ていた。夜の匂いをかぎながら彼女は、じっとして黙ったまま、動こうとはしなかった。小さな声で名前を呼んでみる。小さく、尻尾の先をくねらせる。頭からお尻までの、黒くてやわらかい稜線を何度も指先で往復しながら、他の誰にも聞こえないような声で話しかけた。何を話したのかは、誰にも言わない秘密にしたい。もちろん彼女も、誰にも言わないだろう。不意に彼女はお尻をあげ、僕の胸の上で伸びをする。丸くなってそのまま眠る。何度か寝返りをうって、僕に、顔を向けたり、お尻を向けたりしながら。その小さなかなしい生き物は、今僕の上にいる女よりも少しだけ重たい。それは多分、僕の胸の、一番柔らかい場所で寝ているからだろう。