湯舟と月
木屋 亞万
くすんだ青いタイルに
ステンレスの浴槽
不純な鈍い銀に湯気
小粒の泡に満たされる壁
足は真っすぐ伸ばせない
狭い角ばった湯舟が
都会のビルの林の奥で
私を静かに待つオアシス
窓から月が見える
雲を従え湯気に飾られ
届かんばかりの歌声に
月から覗かれる私の横顔
口を沈めてぶくぶくと
誰も咎めはしないから
少し前に流行った歌を
泡に乗せて歌ってみる
月には水泡を飲むユニコーン
洗剤より青白い粉末に覆われ
洗濯機は自転より早く回るの
宇宙は私の細胞の中にあるわ
私の真空を飛び回る青い粒が
いつかあなたを吸い込むから
紐をたどり邪魔物を掻き分け
小さな世界の真実を見つけて
声高らかに
歌いきった後
足を小さく畳んで
正方形のお風呂
バスタブに赤くなった
耳たぶを沈めて
月にちらりと
ウィンクをした